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Gallery 38 グループ展「知覚- Perception」にて発表した3つの標本箱からなるアンプラグド作品「灰」

「灰」は、作家としてどう音を扱ってきたか、音自体ではなく、音への向き合い方・態度を保存することを目的として制作された。

Photography: Osamu Sakamoto(except #1)


この度 Gallery38では、セシリア・アンドリュース、細井美裕、オリバー・マースデンの3名によるグループ展 ”知覚- Perception” を開催いたします。この3名のアーティストは「知覚」や「感覚」を作品の共通点としています。「知覚 (Perception)」とは、外界からの刺激や情報を感じ取り、それに対して意味を与える心理学的なプロセスとされます。私たち人間を含む動物は、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)や他の感覚(運動感覚、平衡感覚、内臓感覚など)を介して、外部からの情報を受け取り、その得られた情報を理解し行動するために、知覚は重要な要素となります。現代社会における人間は多くの刺激にさらされる環境におり、非常に多くのことを常に知覚し、それは人間の心理と密接に結びついているとされます。

セシリア・アンドリュースの抽象的な肖像画は、多様で対照的な素材を通して、感情的、精神的、身体的な状態、つまり個人と普遍的なものが出会う場所を探求してきました。2018年に点字版のラルース百科事典(フランスの代表的な百科事典)の旧版が寄贈されたことを受けて、知覚の問題をめぐる芸術的考察が生まれました。感覚的な側面や喚起を作品に取り入れることで、鑑賞者にメディアを通して芸術に対する新しい感受性と経験を呼び起こすことを目指しています。これは、他者と出会うことができない自分の姿と、互いに理解し合うために近づくことの重要性を象徴しています。

細井美裕は、自身の声を使ったものから、環境音を使ったものまで、一言でサウンドアーティストといっても、いわゆる音をスピーカーや楽器から出す作品をつくるだけではなく、音や機材を使わない作品なども手掛けており、「サウンド」を素材に、鑑賞者に空間を意識させます。本展では、2022年のArt Collaboration Kyotoにて、自身初となる「オブジェクト」としての作品を発表し好評を得た ”Fixation 5” を東京で初めて展示します。この作品は鑑賞者に対し、立ち止まり、近づき、耳を傾けるよう促します。 彼女が「時間をベースにしたメディア」として捉えているサウンドを用い、これを巧みに操り、発する音のループを通じて「非時間 (non-time)」という意識を喚起します。また本展では新作として、自身の制作プロセスから生まれる根源的な疑問と音に対峙する自身の存在に着目した作品が展示されます。

オリバー・マースデンは、音、運動、エネルギー、重力といった目に見えない自然で物理的な力に焦点を当て、作品を制作してきました。様々な素材を使い、独自の手法で創り出される鮮やかな光を放つフォルムは、色、形、光、空間に対する鑑賞者の知覚と戯れ、調和のとれたエネルギーを共鳴させながら、鑑賞者を虜にしながらも、その全容を捉えさせません。制作の原動力となるのは一瞬の出会いや、作家が「シンクロニシティの感覚」と表現する、観察と思考が一致して、 調和や全体性の強い感覚を生み出すようなものであることが多いと言います。

知覚と芸術の結びつきで最も興味深いのは、鑑賞者とアーティスト、両者に内在する主観性であり、鑑賞者は文化的背景、個人的な経験や感情に影響されながら、作品を独自に認識します。同様に、アーティストも独自の視点や解釈を作品に持ち込み、表現しています。両者におけるこの主観性こそが、作品に対する解釈の幅を広げているのではないでしょうか。今回展示される作家たちの作品に限らず、私たちは鑑賞する作品と対峙した時、感覚や感情へと誘われ、それは作家・作品とのより深い結びつきを育み、時には既存の認識が覆されます。この相互作用は、アーティストにとっても、その作品を鑑賞する人々にとっても、常にインスピレーションと探求の源であり続けてるのではないでしょうか。本展で、ほんの少し自身の「知覚」に意識を向けてみると、新しい感覚と発見があるかもしれません。

Media
鈴、カセットテープ、スピーカー、虫ピン、標本箱
Date
2023年8月31日(木) - 10月1日(日)