ヒューマン・アーカイヴ・センター(シリーズ)
- Sound Piece
- 2024~
人間と、特定の物や場所の関係性を記録する
Human Archive centerシリーズの作品は、サイズは異なりつつも、意図的に同じかたちになるよう作られています。光をぼんやり反射させるステンレスの板は、取り付けられた二つのスピーカーから再生される音の反響版としても機能しています。
– Bataan Technology Park (2025)
– Nénette (2025)
モナ・リザに向かって人々はカメラを掲げてゆっくりと前に進む。これだけの人が写真を撮っているなら撮らなくていいなと、代わりにレコーダーをモナ・リザに向けてみた時、現在の私たちにとってその作品がどういう存在だったのかを音で残すことも可能だろうと考えた。さらに、それはとある作品/場所/人間とは違う何か から見た人間たちのアーカイブでもある。鑑賞する人たちの様子から、例えば絵画の正面まで行くには10分弱並ぶ必要があること、隣の人の声が近く非常に混雑していること、泣く子供もそのままに並び続ける母親熱狂ぶりや、セルフィースティックが禁止されていることもわかる。これからずっと未来も、同じ光景が続くのだろうか。
出演していた舞台作品Tangentがヴェネチアに招待された。Malibran劇場に1週間滞在していたところ、休憩場所として使っていた劇場裏に面した運河が、観光客を乗せたゴンドラのルートであることに気づく。コーヒー片手に休んでいると、ここを通るゴンドラのガイドは必ず同じ場所で、我々の劇場を指差して「See? This is Marco Poro House」と声高に言う。西洋人は強い興味を示し盛り上がるのに対し、我々を含むアジア人は特段強い反応を示さない。頭上の石碑には「QUI FURONO LE CASE DI MARCO POLO(ここにマルコ・ポーロの家があった)/CHE VIAGGIÒ LE PIÙ LONTANE REGIONI DELL’ASIA E LE DESCRISSE(彼はアジアの最も遠い地域まで旅し、それを記録した)」とある。休憩のたびに、何隻も通り過ぎていくゴンドラから聞こえてくる声を録音していた。
大英博物館にあるロゼッタ・ストーンは、四方を保護ガラスで囲まれている。その石を一目見ようとあらゆる方向から大量の人が群がるが、モナ・リザのそれとは違い、大声を出す人もいなければ、人を押し出そうとする人もおらず、写真を撮る人もそれほど多くない。皆落ち着きながら順に石に近づき、眼前にロゼッタ・ストーンが現れたところで皆目的を果たしたかのように道を譲る。周囲ではロゼッタストーンについてガイドたちが説明している。2022年、エジプトの考古学者2500名以上が、ロゼッタ・ストーンの返還を求める嘆願書を提出した。
Bataan Technology Park (2025)
フィリピンのバタアンにある、かつてPhilippine Refugee Processing Centerとして機能していた旧難民センターを訪れることができた。難民センターは、政府により経済推進のためBataan Technolody Parkに名称変更され、運営費用も差し止めになったようだ。名前が変わっても、施設と周辺は当時のまま残され、地元の人々がセンターの看板のペンキの補修をしていたり、面倒を見ている様子が感じられる。施設の奥に進むと、当時そこで過ごした難民たちが、それぞれの故郷を思い出しながら制作した宗教のモニュメント群があった。管理されていない道は、歩くと深く沈み込む枯葉の音がする。一緒に訪れた友人たちは、そこで見つけた石碑の、消えかかった文字をなんとか読み上げようとしている。
Nénette (2025)
ボルネオで生まれたネネットは、パリ植物園の中にある動物園で50年以上を過ごす。子どもたちはネネットを指さして「ネネットは僕と同じ?」と聞く。「この大きいガラス壊せるよ!」「ネネットは1972年にここに来たって」と話しながら、もうほとんど動かないネネットの一挙手一投足に沸き立つ。展示室の入り口には”動物たちのために静寂を”と書いてある。全ては私たちの良いように、ネネットは生きてきた。録音を止めることができず展示室の外に出ると、ネネットの檻の鍵を閉める飼育員に出くわす。彼女の腰にはたくさんの鍵がぶら下げられ、その音とともに遠くに消えていった。きっとそれは私でもあった。本作にアーカイブされた音は、訪問者にとっては儚く、ネネットにとっては果てしなく繰り返される瞬間だ。
Credit
- Metal Works: Kodai Kawai(mujica)
- Media Player: ATL. Inc
- Photo: So Mitsuya




